米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮当局は最近、国内各地で「住民総会」なるものを開かせ、国民に対する思想的抑圧を強めている。
女子大生を拷問
住民総会というのは、簡単に言えば「吊し上げ」だ。役場の前や学校の運動場に舞台を設置。当局の意に沿わない言動を見せた人々をそこに上がらせ、他の住民たちに糾弾するよう強要。その後に保安署(警察)などに連行するのだ。
北朝鮮で最も恐れられている「公開処刑」ほどではないにしろ、見過ごすことができない人権侵害の一つだ。
住民総会は、2013年6月に始まったものだが、社会の雰囲気があまりに殺伐としたため、翌年初めには中止になった。ところが、それを今年10月に再開し、毎週日曜日に実施させているというのだ。
この事実は何を物語っているか。北朝鮮当局は、海外ドラマを見ただけの女子大生にまで拷問を加え、さらには公開処刑のような極端な手段を動員して「思想的ゆるみ」を矯正しようとしているが、それがまったく上手く行っていないのだろう。
それどころか、北朝鮮の人々の心の自由は、確実に大きくなっている。 北朝鮮庶民のブラック・ユーモアにかかれば、金正恩党委員長の権威など紙のように薄いものでしかない。
しかも北朝鮮の特権階級が住む首都・平壌市民の間でも、金正恩氏を露骨にバカにする言葉が流行っているというのだ。
「友達に会えてうれしそうだ」
RFAの平壌在住の情報筋によると、これまで金正恩氏を批判的に呼ぶ場合、「世間知らず」という言葉が使われてきたが、最近はよりひどい悪口を言われているという。
今年8月、金正恩氏は「大同江(テドンガン)ブタ工場(養豚場)」を現地指導した。この様子がテレビで放映されるやいなや、正恩氏を「テジ」と呼ぶことが流行りだしたのだ。テジとは、朝鮮語でブタのことだ。庶民らは、放送を見ながら次のように悪口を浴びせかけるという。
「友達に会えて嬉しそうにしているな」
「ブタのなかでも人間の格好をしているやつが一番重そうに見えるな」
市内の市場では、まるまると肥えた家畜を「指導者級」と呼ぶ。もともと北朝鮮では、男性はふくよかな体型が好まれてきた。しかし、最近では韓流ドラマの影響で、スラッとした男性が好まれるようになったことも、正恩氏が悪口のネタになる理由の一つだ。
ただし、金正恩氏も最初から今ほどの肥満体だったわけではない。登場時は太り気味ではあったが、ある時期から急激に体重が増加した。気になるのは「血の粛清」が激しくなるのと体重の増加が軌を一にしていることだ。
庶民たちは、正恩氏の政治手法についても「エゴイズム政治」「疑い政治」などと言って非難する。「人民愛」や「親しみやすさ」を強調しながらも、実際には自分勝手で側近ですら信用していないことに対する批判だ。
こうした言葉は正恩氏だけでなく、「民族の太陽」と崇められる祖父・金日成氏も対象になっている。平壌市民の間では「太陽を信じて生きる」という言葉がよく使われている。しかし、ここでの「太陽」は金日成氏でなく、ソーラーパネルを意味するのだ。
金正恩体制を批判してきた筆者としても、もさすがに「ブタ」呼ばわりはどうかとも思う。しかし、北朝鮮の庶民たちは、公開処刑、拷問、政治犯収容所に象徴される恐怖政治の下で怯えながら生活し、一寸先は闇という人生を送っている。金正恩体制に怒りと不満を抱えた庶民たちからすれば、ブタ呼ばわりするぐらいでは飽き足らないだろう。
http://dailynk.jp/archives/77804
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